加速器第三・第四研究系
SuperKEKBリング

加速器第三・第四研究系は第五研究系(入射器)やBelle IIグループなどと協力してSuperKEKB衝突型リング、陽電子ダンピングリングの開発研究、性能向上のための研究、運転、将来計画の研究などを行っています。

研究主幹挨拶

加速器第三研究系主幹/柴田 恭(Kyo SHIBATA)
役職:加速器研究施設 加速器第三研究系主幹 教授

加速器第四研究系主幹/飛山 真理(Makoto TOBIYAMA)
役職:加速器研究施設 加速器第四研究系主幹 教授

SuperKEKBプロジェクトは、陽電子と電子を衝突させて生成されるB中間子等を含む反応実験を詳細に研究することにより、今まで観測されていなかった物理現象を発見することを目的としています。この目的で用いられるリング型衝突加速器がSuperKEKB加速器です。SuperKEKBは、極めて多くのB中間子・反B中間子対を生成するBファクトリー(B工場)で、しかもこれまでの生成効率を大きく凌駕するので、スーパーBファクトリーと呼んでいます。

SuperKEKBは、周長が3kmの電子用と陽電子用の二つのリング型加速器と、このリングに電子・陽電子を供給する入射器から成り立っています。地下12mに掘られた1周約3kmのトンネルの中には、二つの円形加速器が並んで設置され、それぞれの加速器の中を電子ビーム(エネルギーが7GeV)と陽電子ビーム(4GeV)がほぼ光速で逆方向に周回します。二つのビームはリングの一点のみで衝突する様に設計されており、衝突点にあるBelle II検出器が衝突によって起こる素粒子反応を捉えます。

SuperKEKBでは、鉛直方向ビームサイズをほぼウイルスサイズまで絞る事、またビーム電流を大幅に上げる事により、KEKB加速器の数十倍まで衝突頻度(ルミノシティ)を上げる事を目指し、挑戦を続けています


研究グループ

KEKB施設・安全グループ

グループリーダー/渡邉 謙(Ken WATANABE)

役職:加速器研究施設 加速器第三研究系 准教授

SuperKEKB加速器(およびPF-AR加速器)における放射線防護を目的とした安全システムを構築すると共に、加速器の運転に重要な空調、冷却水、電力受電設備など施設・インフラストラクチャーの維持を施設部と協力しながら担当しています。我々が担当する加速器は常に最高性能を更新し続けるための改造が行われる環境にあり、放射線シールドの建設も含めた安全システムの構成も堅実かつ柔軟な発想でより堅牢となるよう最適化していく必要があります。

また、つくばキャンパス最大の加速器の施設・安全を担当として、機構における各種安全業務に関する重責も担っており、所属・プロジェクトの垣根を超えた活動をしております。

真空グループ

グループリーダー/柴田 恭(Kyo SHIBATA)

役職:加速器研究施設 加速器第三研究系 教授 研究主幹(併) 技術副主幹(併)

SuperKEKBのようなリング型加速器では、電子や陽電子のビームは金属製ビームパイプの中を回っています。ビームパイプ中に気体分子が大量に存在していると、電子や陽電子は気体の分子との衝突により進行方向が大きく曲げられてしまい、長時間パイプ内にとどまることができません。そこで、ビームパイプ内の気体分子を減らし、真空状態にすることが必要となります。例えば圧力を1兆分の1気圧にするとビームを10時間以上加速器内に溜めておくことができます。このように、ビームパイプを真空にし、安定に維持することが加速器真空システムの大きな役割です。圧力が低いと、ビームを安定に保つ効果もあります。真空システムは、加速器の基本となるシステムの一つです。

LLRFグループ

グループリーダー/小林 鉄也(Tetsuya KOBAYASHI)

役職:加速器研究施設 加速器第三研究系 教授

放射光を出すことでエネルギーを失うビームに、高周波加速空洞を通してエネルギーを供給するシステム全体について、制御系であるLLRF(低レベルRF制御系)の研究・開発・維持、また空洞システムが作り出すビーム不安定現象についての研究を進めています。

高パワーRFグループ

グループリーダー/渡邉 謙(Ken WATANABE)

役職:加速器研究施設 加速器第三研究系 准教授

SuperKEKB加速器のリング内にある30台の常伝導空洞(ARES空洞)、8台の超伝導加速空洞およびDRにある2つの加速空洞にUHF帯の大電力高周波電力(連続波)を供給しています。この大電力高周波源には、連続波では世界最大級の1.2MWクライストロンを計31本使用しており、当該クライストロンの開発、その保護回路も兼ねる立体回路と呼ぶ伝送系および発生させた高周波電力を安全に吸収するためのダミーロードなどの研究、開発、維持を行っています。本システムは施設機械設備と同様にインフラストラクチャーとして取り扱われ、群を抜いた堅牢さを有することが求められます。ここで最も重要な研究項目の一つとして、数十年に渡る運転期間を考慮した各機器の長寿命化があります。特に水冷する系統において電気的・化学的特性を考慮した水質管理、その系統で使用する機器の材料・表面処理方法の開発がそのカギを握り、その良し悪しを判断するため長期にわたるモニタリングも行っております。

また、同システムは歴史的な経緯からPF-AR加速器にも使用されており、我々のグループはこちらのシステムの運転・維持管理に大きく貢献しています。

常伝導空洞グループ

グループリーダー/阿部 哲カ(Tetsuo ABE)

役職:加速器研究施設 加速器第三研究系 教授

SuperKEKB加速器で電子リング・陽電子リング両方に使われている常伝導の加速空洞は、大電力マイクロ波を溜め込む「貯蔵空洞」、実際にビームを加速する「加速空洞」、そしてその両者を繋いで有害なビーム不安定を抑制する「結合空洞」から成る三連空洞システムです。これは、世界的にも唯一無二で強力な高周波加速空洞です。英語で「Accelerator REsonantly coupled with energy Storage」と言うため、「アレス(ARES)空洞」と呼んでいます。

アレス空洞は前人未到の大電流ビームを安定的に加速するため、加速性能を制限しうる高周波空洞内の真空絶縁破壊について、その発生メカニズムの解明や、新しい監視・診断システムの開発も行っています。

超伝導空洞グループ

グループリーダー/西脇 みちる(Michiru NISHIWAKI)

役職:加速器研究施設 加速器第三研究系 准教授

加速空洞は空洞内に電圧を発生させて電気を持った粒子(電子、陽電子など)を電磁力で加速する装置です。超伝導体(ニオブ)は銅などの金属に比べてはるかに効率よく高い電圧を発生することができます。この性質を利用して超伝導加速空洞が作られました。

KEKB加速器では8台の超伝導加速空洞が1.4アンペアの電子ビームを加速することに成功しました。SuperKEKB加速器では2倍の2.6アンペアの電流を加速します。大電流ビームを安定に加速する技術が求められています。

冷凍機グループ

グループリーダー/中西 功太(Kota NAKANISHI)

役職:加速器研究施設 加速器第三研究系 教授

大型ヘリウム冷凍システムは、1988年(昭和63年)にトリスタン加速器計画の超伝導加速空洞の冷却システムとして日光実験室に設置されました。当初は、冷凍能力 【4 kW at 4.4 K】 の設備としてスタートしましたが、1989年(平成元年)に超伝導加速空洞が増設されたことに伴い、国内初の超臨界タービンを装備した冷凍能力 【8 kW at4.4 K】 の冷凍システムに増強され、7年間安定に運転されました。その後、1998年(平成10年)からは、Bファクトリー(KEKB)の超伝導加速空洞の冷却用に再利用・運転され、2007年には世界で初めてKEKBで実用化された超伝導クラブ空洞の冷却にも使用されました。2010年(平成22年)のKEKB運転停止までに、本ヘリウム冷凍システムの総運転時間は22年間で110,000時間を超えました。引続き、SuperKEKBでも超伝導加速空洞の冷却に使用するため、長期間の安定した運転を目指して冷凍システムの開発・保守・点検を行っています。

制御グループ

グループリーダー/森田 昭夫(Akio MORITA)

役職:加速器研究施設 加速器第四研究系 教授

電子と陽電子が衝突してたくさんB中間子が作られるように、多数の装置を瞬時に調整しています。加速器の各装置と中央制御室の間の橋渡しをしているとも言えます。装置の数が約1万、制御情報の数は20万にもなるので、指令を確実に伝え、情報を有効に利用するために複雑な制御システムが必要となります。

制御は計算機が得意とする分野なので、数多くの計算機を使っています。サーバ計算機10台、全体操作用計算機20台、実時間自動処理用計算機100台、それらをつなぐ大容量高速ネットワーク装置、さらに数千台のマイクロコンピュータを使っています。国際的に共同開発されているEPICSというソフトウェアも使っています。

BTグループ

グループリーダー/多和田 正文(Masafumi TAWADA)

役職:加速器研究施設 加速器第四研究系 准教授

衝突リング(HER、LERの2つの円形加速器)には電子および陽電子を蓄積します。 線型加速器で加速された電子および陽電子を 衝突リングまで運び、入射することがビーム輸送システムの役割です。リング側では、入射に必要なパルス電磁石システム、またビームを1周で安全に捨てるためのビームアボートシステムも担当しています。

モニターグループ

グループリーダー/飛山 真理(Makoto TOBIYAMA)

役職:加速器研究施設 加速器第四研究系 教授 研究主幹(併)

SuperKEKBのような精密な加速器では、高い性能を実現するために、ビーム位置を正確にかつ高速に測定し、ビーム光学グループに提供することが非常に大事です。電子リング、陽電子リングそれぞれ450箇所程度にある位置モニターでの測定装置の開発、維持、研究を行っています。

また、電子や陽電子は、バンチと呼ばれる電子や陽電子の塊となって周回していますが、そのサイズ(ガウス分布としたときの標準偏差で、長さ方向で6mm程度、水平方向0.3mm、鉛直方向0.01mm程度)を正確に測定することから、ビームが感じている電磁場の情報を得ることが出来ます。このために重要な主にシンクロトロン放射を観測する、可視光及びX線のモニターの開発、研究、維持をしています。

バンチ同士の間隔は通常運転時では1.2m程度(4ns)で、先行するバンチが残した電磁波によって後続のバンチが揺すられる現象(バンチ結合不安定)を抑制するバンチフィードバックシステムの開発・研究・維持も、ビームモニターグループが担当しています。

マグネットグループ

グループリーダー/中村 衆(Shu NAKAMURA)

役職:加速器研究施設 加速器第四研究系 教授

SupeKEKBではトンネル内に電子/陽電子リング合わせて約300台の偏向電磁石、約900台の四極電磁石、200台以上の六極電磁石を設置し、それぞれのリングのビームを操作しています。この他に四極電磁石のとなりには小型の偏向電磁石(補正電磁石)を多数設置し、各ビーム軌道の微調整を行っているほか、四極電磁石/六極電磁石には光学補正を行うための補助コイルが巻かれています。これらの電磁石はすべて精度よく加工されたもので、個体差をできるだけ小さくしています。また、設置前には磁場測定を行ってすべての電磁石の特性評価を行ったのち、トンネル内に0.1mm以下の精度で据え付けています。

これらの電磁石や補助コイルに電流を流す電源は大小合わせて3000台近くあり、それぞれ運転に必要とされる磁場精度を満たすために要求に応じて1~100ppmの精度で電流を設定、通電を行っています。通電している電流値も同程度の精度で計測する必要があるため、高精度の電流モニタシステムを用意し、常時モニタリングを行っています。 これら電磁石・電源の維持管理や新規開発の他、トンネルの年次沈下や振動の測定など電磁石のアラインメントや磁場の変動に関する測定も行っています。

超伝導電磁石グループ

グループリーダー/大木 俊征(Toshiyuki OKI)

役職:加速器研究施設 加速器第四研究系 准教授

SuperKEKBでは、電子と陽電子ビームの衝突性能(ルミノシテイ)をKEKBの数十倍まで向上させることを目標としています。この為に2つのビームは縦方向に陽電子/ 電子=48/62ナノメートルまで絞られます。これを実現する為に、衝突点の一番近い位置に沢山(色々な種類)の超伝導電磁石が設置されています。SuperKEKBでは、ビーム衝突点の左右にクライオスタットがKEKBと同じく1台づつ配置されていますが、各クライオスタットの中には超伝導4極電磁石が4台、超伝導ソレノイドが1台、超伝導コイルが20台組込まれています。

将来計画として、より超伝導転移温度の高いNb3Sn線材を使った超伝導最終集束磁石の開発をKEK内の低温センター、機械工作センターをはじめ、国内の大学、また、海外の研究機関と協力しながら進めています。

コミッショニンググループ

グループリーダー/大西 幸喜(Yukiyoshi ONISHI)

役職:加速器研究施設 加速器第四研究系 教授

SuperKEKB加速器の目標性能を達成するためのビーム光学設計、完成した加速器 の性能達成の工夫および調整等を行います。

みなさんは、カメラのレンズがどのようにして設計され、なぜレンズが何枚も組 み合わされているかご存知でしょうか。それは、きれいな写真を撮るために創意 工夫されているからです。加速器もカメラと同じようにレンズ群に相当する電磁 石群を組み合わせてビーム光学設計を行います。また、完成した加速器は設計か らは、必ず誤差があります。この誤差を補正し性能を発揮させる努力を日々行っ ています。これを、コミッショニングと呼びます。SuperKEKB加速器のコミッシ ョニングには、3系と4系の教員、技術職員が参加し、24時間3交代で参加してい ます。コミッショニング・グループはその中核としてビーム光学の研究、ビーム からの情報を使ったビーム光学補正、ビーム軌道補正などのツール開発、ルミノ シティ調整の為の衝突調整ツールの開発を行っています。



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Makoto Tobiyama
Last update 12/Nov/2025